【EMDRとは…】
EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理法)は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に対して、エビデンスのある心理療法です。EMDRは、適応的情報処理(AIP)というモデルに基づいています。このモデルでは、交通事故や災害などのトラウマ的な、もしくは、いじめやパワハラや虐待といった継続的に続く苦痛で嫌な経験が、行き場を失い不適応にその人に残っているとされています。そのことにより、現在の経験を適応的に対処する能力を充分に発揮できない状況にいます。EMDRによって健常な状態に近づけ、現在の症状を緩和し、苦痛な記憶からストレスを減じたり除いたりすることで、自己の見方が改善し身体的苦痛から解放され、現在とこれからの予測される引き金が解決することをお手伝いいたします。EMDRは、1989年にアメリカでFrancine Shapiroという臨床心理学者が発表し、アメリカ心理学会(1998)や国際トラウマティック学会(2000)で推奨される治療ガイドラインに掲載されるなど、その効果が評価されています。EMDRは、眼球運動や他の両側性の刺激が大きな役割を果たし、脳を直接的に刺激し、脳が本来もっている情報処理のプロセスを活性化できると言われています。数年から10年かけて苦痛な経験を緩和するプロセスを、非常に短時間に進め、クライエントさんの本来の力を引き出すのを援助します。また、止めたいときにはいつの時点でも止めることができます。
当相談室でのEMDR を用いたトラウマの治療では、現在の症状がトラウマの問題であるかどうか、それだけではなく他の問題(精神症状や発達障害など)が重複している可能性も念頭におきながら適切な判断をし、相談方針を決めます。EMDR実施に必要なこれまでのお話しを伺った上で、準備に入っていただきます。また、クライアントさん自身でセルフケアを出来るようにお手伝いをさせて頂いてから開始します。効果としては、外傷的出来事に突然さらされてトラウマとなった人に対して有効性は高いと言われています。それに対して、幼少期から長時間に渡り慢性的に外傷的な環境にさらされ続けた場合、必然的に難しくなり、根気よく過去を振り返り、相談者と一緒に問題を見つめていく必要が生じます。クライアントさんによっては、精神分析的心理療法や認知行動療法といった違う心理療法が合う場合もあります。どの療法においても、クライエントさんと相談者が充分に話し合いながら問題を解決していくことになります。
【EMDRを用いた強迫症(強迫性障害)の心理療法】
強迫症(強迫性障害)は、強迫観念、強迫行為、またはその両方が認められることを特徴とします。強迫観念とは、不安を呼び起こす好ましくない考え、イメージ、衝動が頭の中に繰り返し割り込んでくることをいいます。強迫行為(儀式とも呼ばれます)とは、強迫観念により生じる不安を和らげたり抑止したりするために繰り返し行わなければならないと患者が感じる、特定の行動や精神的な行為です。よくみられる強迫観念には、①汚れることに対する懸念(例えば、ドアノブに触れると何かの病気にかかるのではないかと心配する)②何かのやり忘れに対する不安(例えば、玄関の鍵をかけ忘れていないか心配する)③物が完璧に並んでいない、均等ではないことに対する懸念などがあります。強迫観念は愉快なものではないため、しばしばそれを無視しようとしたり、コントロールしようとしたりします。強迫症の心理療法には、 認知行動療法の一種である曝露反応妨害法がしばしば効果的と言われています。曝露療法では、強迫観念、儀式、不快感などの引き金になるあらゆる要因(状況や人物)に繰り返し徐々に直面(曝露)させる一方で、強迫行為としての儀式を行わないよう指示します(反応妨害法)。曝露を繰り返すことにより、不快感や不安は次第に薄れていき、不快な感覚を減らすための儀式は必要ないことを本人が理解するようになります。一方、こうしたアプローチはご本人にとってとてもきつく中断してしまい、さらに絶望感を抱くケースもみられます。EMDRを用いたアプローチは、強迫症に対する有効性が示されており、心理士との共同作業でご本人の症状の軽減を目指して取り組みます。当相談室では、「汚れることに対する懸念」が強い方を対象にEMDRを用いております。
関連サイト
日本EMDR学会 https://www.emdr.jp/
【ホログラフィートークとは…】
心理療法の一種とされ、クライエントさま本人が感情や身体症状の意味を読み取り、解決し、自らを癒すプロセスを心理士が援助するものです。
ネガティブな感情や身体症状、繰り返し起こる問題は、その過去の再演であるとも言われています。問題の起源を探り解決することは、問題の根本を解決することになり、その再演を防ぐことにもなるでしょう。問題の解消後は未来に向かって、新しいリソースや解決法を見出していきます。
「ホログラフィートーク」のメリットは、人間の持つ豊かなイメージを利用することで、通常の意識下では現れにくい抑圧された問題場面に到達しやすく、根本的な問題の解決が進みやすいところです。また、過去のトラウマティックな場面に遭遇しても強い反応や、フラッシュバックが起こりにくく、安全性が高い方法です。心理士が介添えすることで、本人だけでは解決できない過去の問題をより良く解消するという効果が期待できます。
関連文献 白川美也子(2005)歴史とトラウマと解離.埋葬と亡霊(森茂起編),38-66.
嶺輝子(2017)ホログラフィートークとトラウマ治療.そだちの科学,29,69-74.
嶺輝子(2020)ホログラフィートークの複雑PTSDに対する適応の可能性.精神神経学雑誌,122,10,757-763.